Gim Hong-sok - ギム ホンソックについて

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Gim Hong-sok   ー ギム ホンソックについて

ギム ホンソックは1964年にソウルで生まれ
1987年にSeoul National University (ソウル国立大学彫刻科)を卒業した後
ドイツの大学院Kunstakademie Düsseldorf (デュッセルドルフ美術アカデミー)を修了。光州(2012年, 2006年, 2002年)、リヨン(2009)、イスタンブール(2007)、アートバーゼル(2007)、ヴェニス(2005,2003)、台北(2000)を含む様々なアートフェアや国際ビエンナーレなどに多く出展しており、現在はソウルを拠点に活動している。

 

ギムホンソックは、写実主義的な制作姿勢と、ユーモアを含んだ素材の変換で著名な韓国作家です。彼は既存のものからの転用盗用の間に在る境界を歩み、作品の持つ信憑性と芸術というものを構成する根源的な要因、つまりは「芸術は何によって芸術たり得るのか。」という問いに対してしばしばアプローチしています。

 

彼の作品によく見られる人を欺く外観の作風は彼の翻訳に対する好奇心を反映しており、あたかも本当のような架空の物語や歴史を作り出し視覚的な皮肉とユーモアを孕んだ作品によって鑑賞者を意図的に欺しています。

かつて彼はArtAsiaPacificのインタビューにおいて「主に韓国で上映されている西洋番組の韓国語字幕を通じて、私たちは“間接な手によって作り出された別世界”を経験しているのだ」と彼はメディアについて説明していました。

彼のMaterial (2012)Untitled (short people) (2017)といった積み重ねられた風船の彫刻作品では、彼の翻訳に対する独自の解釈が表出しています。

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Material (2012) Untitled (short people) (2017)

それは風船自体の外見の弱さにも関わらず、地面に直に接着しています。
なぜならその風船は重質な樹脂やブロンズによって出来ており、それによって素材(風船)に対する鑑賞者の先入的期待を裏切る状況を作り出しているのです。

そういった独自の作風から彼の作品において、テキストによる説明はただの見せかけに過ぎず全く信用できないものとなっています。

彼が2006年の光州ビエンナーレで発表したThe Talk (2004)で彼は、外国人労働者を演じるプロの俳優を雇い映像作品に出演させました。
その俳優が演じる労働者は自分の法的な権利を主張していますが、その映像の下部に映し出された英語字幕には韓国で成功したインド人労働者の物語が映し出されていました。つまり映像の労働者の主張と映し出される字幕とではそこに大きな矛盾が発生しているのです。

 

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The Talk (2004)

この作品も彼のいう“間接な手によって作り出された別世界”を表現しています。

 

またBremen Town Musicians (2006–7)という作品のために壁に書かれた説明文では、彼は展示期間の間、メキシコ労働者たちに動物のコスチュームを着てポーズを取ってもらうために彼らを雇い、報酬として時給5ドルを支払う事を観客に向けて説明していました。しかし実際に動物のコスチュームを着せられているのはメキシコ労働者ではなくただのマネキンだったのです。

 

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Bremen Town Musicians (2006–7)

 

この中身がマネキンであるという事実や英語字幕の虚偽への気づきは、事実を偽装しているにも関わらず結果として作品に対する観客の道徳的な不安を解消します。ギムホンソックの作品は、この世界で疑いようもなく認識された言説やイメージに対して依存することを全面的に拒絶しています。つまりは目に見える事実を鵜呑みにすることの危険性を喚起しているのです。

 

2008年には、ギムホンソックは廃棄された段ボール箱、ラッピング用の紙、ゴミ袋などのアートが生み出す副産物に着目しそれらをモチーフとして使用した”補足的な建造物”を彼の作品に取り入れ始めました。A Study on Slanted Hyperbolic Constitution (2010) という作品では彼はある角度で二つのダンボール箱を積み重ね、(アートの二次的な副産物の)平凡な素材をアートとして仕立て上げ、まるでマルセル・デュシャンの革新的なレディメイドまたファウンドオブジェクトのコンセプトに共鳴したように見せかけました。

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A Study on Slanted Hyperbolic Constitution (2010)

 

ギムホンソックの作品はしばしば他のアーティストによる作品を引き合いにしています。例えば先に触れた彼のBremen Town Musicians (2006–7) はイタリアのマウリツィオ・カテランのLove Lasts Forever (1999) の動物の組み合わせから借用しており、雇用労働者を使った実践(ギムホンソックの場合は偽装された雇用人だが)はスペインのサンタゴ・シエラから参照しています。

一方、A Study on Slanted Hyperbolic Constitution (2010) のタイトルはデイヴィッド・スミスの近代彫刻を、またその段ボールの重なりから見て取れるLOVEの形状はロバート・インディアナの画期的なタイポグラフィーを想起させます。ギムホンソックの主だった西洋の作家たちに対するアプロプリエーション(盗用芸術)はアートを成り立たせる要因と世界のアートシーンの中の西洋以外の作家たちが占める立ち位置を強調しています。それはつまり西洋が支配するアートの歴史の中でその歴史に接続しようとする、長年「その他の作家たち」として見なされてきたアジアの作家たちの挑戦がアートの主題となっているのです。


その他の彼の作品では時給労働者に自分の絵画をモップで消すように指示を出した作品 MOP series (2012)(その作業にかかった費用は労働派遣庁が提示した賃金基準に従って雇用者に支払われる)や著名な作家の作品をあからさまに盗用したものREAD series (2005)などがあり、アートがアートとしての価値をもつ構造や根拠、また作家と制作労働者の関係性、植民地主義の影響など広範囲に渡る複雑な言及も作品に含意させています。

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MOP-130327 (2013) urethane paint on canvas



ギムホンソックは2006年に中国のチェン・シャオション (1962-) と日本の小沢 剛 (1965-) と共に結成した「西京人」(Xijing Men)にてコラボレーションしている事でも知られています。中国語で西の首都を意味する「西京」は彼らが生きる現代的な世界を反映して3人の作家によって作られた架空の都市です。彼らは西京という街を、現実に実在はしていなくともアート作品や展覧会を通じて実体化させています。彼ら西京人は2008年に彼らが定めたルールと様々なスポーツゲームを実施したパフォーマンス映像を西京オリンピックと言う作品として発表しました。スイカをサッカーボールに置き換えたりパンの塊を使った射撃などのユーモア溢れるこの作品の演出は2008年の北京オリンピック開催という機会に合わせて開催されました。日本では2016年に金沢21世紀美術館西京人 - 西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。が行われました。

 

彼はテレビなどのメディアから様々な間接的情報を入手することを好み
その収集した単語や物語から派生させて作品を構想していることで知られています。

 

 既述した西京人 - 西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。の展覧会でのギム ホンソックの展示スペースには、 Mr.B と題された一体のうさぎの着ぐるみの作品が展示され、その作品の後ろには、「うさぎの着ぐるみをまとうこの人物は不法入国した韓国出身の労働者で、時給10ドルで美術館に雇われてパフォーマンスに参加している」といったキャプションが添えられていました。

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 Mr.B 

「実際に労働者を雇ってパフォーマンスしてもらうのがこの作品として正しいのでしょうか。それとも、マネキンに着ぐるみを着せて立体作品として展示することが正しいのでしょうか。パフォーマンスとは何なのか、芸術とは何をすることをいうのか、何をしたら平凡な何かが芸術たりうるのか。そうしたことを考えるために、私はこの作品を制作しました」と彼は作品について説明しています。

金沢に「芸術を愛する人々が住む国=西京国」が出現 | PAPERSKY より典拠


「韓国は1945年に独立した新しい国です。そして、新しい国にとって何が必要かを考えるなかで、とくにアメリカを参照、模倣して、その文化を翻訳することから自国のアイデンティティーを築き上げてきた。私の関心は、その2つの文化の間にある可能性とオリジナリティーの問題です。たとえば、ある文章をハングルから英語、そして再びハングルへと翻訳したとき、その文章はもとの作家のオリジナルと言えるのかどうか? そうしたことを作品にしてきました。もちろん、その過程では誤読も起こります。私にとっては、韓国人が西洋風の髪型と衣装を身にまとい、ハングルで歌うオペラは悪夢的なものでした。でもそんな雑種性を認めることも、一方では重要なわけですね。」

「自分が正しいと信じているものや、周囲で当然のように通用している価値観が、じつは決して自明ではなかったりする。韓国が経験したように、それは誰かによって選び取られた言葉なのかもしれないわけです。ある国のなかにいるだけではなかなかそれに気づけませんが、絶対化を疑う視線を常に意識しておくことが重要でしょう。」

*オリンピックも開催する架空の国「西京国」のユーモアとは何か? | CINRA.NETより典拠

 

その他の作品

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This is Rabbit (2005) resin, fabric, foam rubber, wood board

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8 breaths (2014) sculptures in bronze

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DIN A series (2013) cast resin

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READ - Damien Hirst, DREAMS AND CONFLICTS, p35 (2005) c-print, framed

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A Study on Slanted and Hyperbolic Constitution-Cubi XII of David Smith (2017) cast bronze

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Untitled (Short People) - 7 balloons (2017) stone, urethane paint on bronze

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Inadequate (EVERY, DAY, ACTS, LIKE, LIFE) (2016) urethane paint on bronze

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Bearlike Construction-629 (2013) bronze, plastic bags, steel fence

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Canine Construction (2009) bronze

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LOVE (2011) car paint on stainless steel

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Pickets (2004) acrylic paint on board